「手術を勧められたけど、3種類あるって言われて混乱していませんか?」

この記事でわかること

  • 眼瞼下垂手術における代表的な「3つの術式」の違いとメカニズム
  • あなたのまぶたの状態(重症度・挙筋機能)に合った手術の選び方
  • 術式ごとのダウンタイムや、論文データに基づいた「再手術率」と美容的効果の比較
  • 再発を防ぐための素材選びや、手術の難易度に関する真実

まぶたが重く瞳に被さってしまい、視野が狭い、夕方になると額や首が疲れる、頭痛がする……。こうした眼瞼下垂(がんけんかすい)の症状に悩み、いざクリニックを受診してみると「いくつかの手術方法があります」と言われて戸惑う方も多いでしょう。専門用語ばかりでどれを選べばいいかわからない、術後の仕上がりや傷跡が心配、再発したらどうしようと不安を抱えるのは当然のことです。実は、ある研究によると特定の手術法で再手術率がわずか2.6%(Ben Simonら 2005)に抑えられたというデータがある一方で、別のアプローチでは18%(Blairら 2018)の再手術率となった結果も報告されています。その違いを生む理由とは何なのでしょうか。本記事では、科学的な論文データに基づいて、眼瞼下垂の各術式を徹底比較し、あなたの疑問を解消します。

そもそも眼瞼下垂の手術とは——3つの術式の全体像

眼瞼下垂とは、上まぶたの縁が異常に低い位置まで下がり、黒目(瞳孔)の一部または大部分を覆い隠してしまう状態を指します。これには、生まれつきまぶたを上げる筋肉の働きが弱い「先天性眼瞼下垂」と、加齢や長期のハードコンタクトレンズ使用などにより、筋肉とまぶたの軟骨をつなぐ組織が伸びたり外れたりして起こる「後天性(腱膜性)眼瞼下垂」があります。

治療の主な目的は、下がったまぶたの縁を正しい位置に持ち上げ、視界(特に上方視野)の障害を改善することです。まぶたを上げるために、現在世界中で主に行われている手術方法は以下の3種類に大別されます。

  1. 挙筋前転術(Levator advancement / resection)
  2. ミュラー筋短縮術(Muller's muscle-conjunctival resection / Fasanella-Servat)
  3. 前頭筋吊り上げ術(Frontalis suspension)

まぶたの表面の皮膚を切って内部の筋肉を縫い縮める標準的な「挙筋前転術」に対し、まぶたの裏側(結膜側)からアプローチして皮膚に一切傷跡を残さない「ミュラー筋短縮術」という選択肢があることをご存知でしょうか? まぶたを上げる筋肉の力(挙筋機能)がどれくらい残っているかによって、適用できる手術は全く異なります。

挙筋前転術——後天性眼瞼下垂のスタンダード

どんな人に向いている?

挙筋前転術(および挙筋短縮術)は、加齢やコンタクトレンズの使用などが原因で起こる後天性の腱膜性眼瞼下垂に対して、世界中で最も一般的に行われている標準的な治療法です。この術式は、まぶたを引っ張り上げるメインの筋肉である「眼瞼挙筋(がんけんきょきん)」の機能(Levator function)が「中等度から良好(4mm以上)」残っている患者に向いています。筋肉の収縮力自体は問題ないものの、筋肉の力をまぶたの縁(瞼板:けんばん)に伝える「挙筋腱膜」という組織が緩んだり剥がれたりしている場合に、その接合部を修復・前転させることで力を再び伝わるようにします。

手術の流れとダウンタイム

手術の多くは局所麻酔下で行われます。予定される二重(ふたえ)のラインに沿ってまぶたの皮膚を切開し、眼窩隔膜という組織を開いて、奥にある挙筋腱膜を探し出します。その後、挙筋腱膜を瞼板(まぶたの芯となる軟骨組織)に縫い付けてしっかりと再固定します。

この手術のメリットは、直視下で解剖学的な構造を確認しながら筋肉を固定できることです。また、皮膚を切開するため、加齢によって余って垂れ下がったまぶたの皮膚(皮膚弛緩症)や、余分な脂肪を同時に切り取ってスッキリさせることが可能です。しかし、皮膚を切るため、術後には腫れ(ダウンタイム)や内出血が生じやすく、表面に切開の傷跡が残る点には注意が必要です。

論文が示す効果と再発率

挙筋前転術の治療効果は非常に高く、視野の改善や美容的な向上をもたらします。しかし、手術後の再手術率についてはいくつかの論文で検証されています。Jules Stein Eye Institute(米国)のBen Simonらによる研究では、外部からの挙筋前転術を受けた51人の患者の術後経過を調査(Ben Simonら 2005)しました。その結果、術前のまぶたの高さ(MRD1)が平均0.5mmだったのに対し、術後には平均2.0mm(Ben Simonら 2005)へと有意に改善しました。しかしながら、十分なまぶたの上がりが得られない(残存眼瞼下垂)、あるいは上がりすぎるといった理由から、全体の18%の患者が再手術(修正手術)を必要としたと報告されています。

また、Saonanonらによる無作為化比較試験(RCT)でも、挙筋前転術を受けたグループにおける再手術率は7.7%(Blairら 2018)であったと報告されています。このように、挙筋前転術は優れた効果を持つ一方で、術中の細かな調整が難しく、一定の確率で再手術のリスクが伴う術式であることがデータから読み取れます。

ミュラー筋短縮術——傷が目立ちにくい選択肢

フェニレフリンテストとは?

まぶたの裏側からアプローチする「ミュラー筋短縮術(Muller's muscle-conjunctival resection)」は、軽度から中等度の眼瞼下垂で、かつ挙筋機能が良好に保たれている患者に対して有効な選択肢です。この手術の適応となるかを判断するために、術前に必ず行われる非常に重要な検査が「フェニレフリンテスト」です。

フェニレフリン(交感神経を刺激する点眼薬)を患者の目に点眼すると、交感神経の働きによってコントロールされている「ミュラー筋」というまぶたの裏の補助的な筋肉が収縮します。点眼の前後でまぶたの高さ(MRD1)を測定し、点眼後にまぶたが2mm以上持ち上がって開きが良くなる場合、その患者は「フェニレフリンテスト陽性」と判定されます。このテストで陽性反応が出た患者は、ミュラー筋を短縮する手術を行うことで、目薬を点した時と同じようにパッチリと目が開く良好な結果が得られると予測できるのです。

挙筋前転術との結果比較

ミュラー筋短縮術の最大の特徴は、まぶたの裏側(結膜側)から結膜とミュラー筋を専用の器具で挟み込み、縫合・切除するというアプローチをとる点です。皮膚側を一切切らないため、まぶたの表面に傷跡が残らないという圧倒的なメリットがあります。

Saonanonらの無作為化比較試験(RCT)では、MRD1の改善度には両グループ間で統計的な差はなく、どちらもしっかりとまぶたを持ち上げる効果がありました。しかし、美容的な仕上がりのスコアはミュラー筋短縮術グループ(3.07)が挙筋前転術グループ(2.69)(Blairら 2018)を統計的に有意に上回りました。再手術率もミュラー筋短縮術は2.6%(Ben Simonらの研究では3%)と、挙筋前転術の7.7〜18%と比べて極めて低い結果でした。

前頭筋吊り上げ術——重度・先天性の切り札

挙筋機能が不良(4mm未満)の場合、まぶたの筋肉をいくら縫い縮めても目は開きません。そこで、まぶたの組織と額の筋肉(前頭筋)を「スリング」と呼ばれるヒモ状の素材で連結し、眉毛を上げる力で物理的にまぶたを吊り上げる手法をとります。

素材の選択(自己筋膜 vs 人工素材)

ゴールドスタンダードは患者自身の太ももから採取した「自己大腿筋膜」です。拒絶反応がなく長期安定性に優れますが、足に傷跡が残ります。シリコンロッドやゴアテックスなどの人工素材は簡便ですが、長期的な再発リスクが課題です。

台湾のHoらの10年間の追跡調査では、前頭筋吊り上げ術の再発率は37.2%(挙筋短縮術の6.8%(Hoら 2017)に対して)。シリコンチューブ使用例では87.5%が再発(Kimら 2017)しました。Kimらの研究では、取り出されたシリコンロッドに無数の亀裂と構造崩壊(Kimら 2017)が確認されています。

重症度別・術式選択のガイドライン

重症度別・術式選択ガイドライン
条件推奨術式備考
軽度〜中等度
挙筋機能≥4mm
挙筋前転術 or
ミュラー筋短縮術
皮膚たるみ→挙筋前転術
傷跡回避→ミュラー筋短縮術
重度
挙筋機能<4mm
前頭筋吊り上げ術先天性小児:弱視予防のため
早期介入が必要

「どこでやっても同じ?」技術差が出やすい手術の現実

眼瞼下垂の手術は「左右の対称性」を高いレベルで実現する繊細な手術です。Sugaら(2017年)の研究では、「術前の左右非対称性」が再手術の強力なリスクファクター(Sugaら 2017)であることが明らかになりました。術前からすでに左右差が大きい患者は修正手術が必要になる確率が高まります。まぶたの高さを1mm単位で微調整するスキルは職人技の領域であり、解剖学的な知識と豊富な経験を持つ専門医を選ぶことが不可欠です。

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この記事のまとめ

3つの術式 — 再手術率の比較
8〜18%
挙筋前転術 再手術率
2.6〜3%
ミュラー筋短縮術 再手術率

どの術式が合うかは診察での専門的な評価が必要です。気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

参考文献

  1. Ben Simon et al. 2005. External Levator Advancement vs Muller's Muscle-Conjunctival Resection for Correction of Upper Eyelid Involutional Ptosis. Am J Ophthalmol. 2005 DOI
  2. Unknown et al. 2018. External Levator Advancement versus Muller Muscle-Conjunctival Resection for Aponeurotic Blepharoptosis: A Randomized Clinical Trial. Plast Reconstr Surg. 2018 DOI
  3. Yang et al. 2014. Comparison of levator-based procedure and frontalis suspension technique. Ann Plast Surg. 2014 DOI
  4. Scuderi et al. 2008. Surgical Correction of Blepharoptosis using the levator aponeurosis-Muller's muscle complex readaptation technique. Plast Reconstr Surg. 2008 DOI
中村 宏光

この記事を書いた人

中村 宏光 医師

Zetith Beauty Clinic 銀座・大阪・福岡

日本国内および国際学会での研究発表実績を持ち、Zetith Beauty Clinic全体の技術指導・教育にも携わる。解剖学的根拠に基づいた精密な美容医療を専門とし、一人ひとりの骨格や組織に合わせた自然な仕上がりを追求している。