1. バイオスティミュレーターとは(CaHA・PLLA)

美容医療の分野は、顔の外観を一時的に改善するだけでなく、老化の根本的な原因に対処する低侵襲な治療法へと移行し続けています(Tam 2024)。これらの進歩の中心となっているのが「バイオスティミュレーター」です。

バイオスティミュレーターとは、体内に注入されることでネオコラーゲネシス(新たなコラーゲン生成)を誘発し、肌の質感を改善し、弾力性を回復させ、顔のボリュームを長期的に補充する薬剤のことです。現在、美容医療の実践において不可欠なツールとなっており、長持ちし、自然な見た目の結果と、高い安全性プロファイルを提供します(Tam 2024)。

代表的なバイオスティミュレーター製剤

  • カルシウムハイドロキシアパタイト(CaHA): CaHAは骨や歯を構成する成分と似た無機材料の微粒子(マイクロスフィア)であり、通常はグリセリンやカルボキシメチルセルロースなどのキャリアゲルに懸濁されて組織に注入されます(Christensen 2009)。組織内で構造的なフィラー(充填)効果とバイオスティミュレーターとしての特性の両方を提供し、主に線維芽細胞の活性化とコラーゲン合成を開始します(Tam 2024)。
  • ポリ-L-乳酸(PLLA): PLLAは生体吸収性の合成ポリマー粒子であり、注射の際にはマンニトールや水、カルボキシメチルセルロースなどに懸濁して使用されます(Christensen 2009)。PLLAは組織内で乳酸に分解され、それがマクロファージを引き寄せます。その後、マクロファージが成長因子を放出し、線維芽細胞を活性化してコラーゲン合成を促すという、炎症反応のカスケードを通じて効果を発揮します(Tam 2024)。

これらの注入剤は、単に物理的に空間を埋めて水分を保持する従来の均質なポリマーゲル(一般的なヒアルロン酸など)とは異なり、フィラーとしての効果の一部または全部を、微粒子に対する宿主の異物反応(マクロファージや異物巨細胞の反応など)に依存していることから、「刺激剤(stimulator)」とも呼ばれます。分解性のマイクロ粒子(PLLAやCaHAなど)は、細胞外マトリックス内でゆっくりと分解され、長期間にわたり持続的な効果をもたらします(Christensen 2009)。

2. HAとの併用メカニズム

美容医療における新たな傾向として、バイオスティミュレーターをヒアルロン酸(HA)などの他の確立された治療法と組み合わせる「コンビネーションアプローチ」への関心が高まっています。これは、老化プロセスの複数の側面に同時に対処することで、単一の治療法よりも包括的で持続性のある美容効果が得られるという考えに基づいています(Tam 2024)。

ヒアルロン酸(HA)の作用と役割

HAフィラーは、主に即時的なボリュームアップ効果で知られていますが、線維芽細胞のシグナル伝達と細胞外マトリックス(ECM)の再構築においても重要な役割を果たしています。HAは細胞表面のCD44受容体への結合を通じて線維芽細胞の活性化をサポートし、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)などの下流経路を引き起こします。このシグナル伝達により、線維芽細胞の増殖とコラーゲンの沈着が促進されると考えられています(Tam 2024)。

CaHAとHAの併用における相乗効果

CaHAとHAを組み合わせることで、HAが即時の水分補給とふっくら感(ボリューム)を提供する一方で、CaHAがTGF-β経路を通じて長期的なコラーゲン合成を推進するという相乗効果が期待できます。CaHAによって誘発される微小な炎症はマクロファージを動員し、これが線維芽細胞にコラーゲン合成を開始するようシグナルを送ります。併用治療は、即時的な物理的充填と、持続的な組織の若返りという二重の利益を組織にもたらすと考えられています(Tam 2024)。

PLLAとHAの併用における相乗効果

PLLAとHAの併用についても、組織のリモデリングを助ける効果が示唆されています。PLLAの乳酸への分解に伴うマクロファージの動員とコラーゲン生成プロセスに対し、HAは水分を保持し、線維芽細胞の活性に適した環境を整えることができます。このように、バイオスティミュレーターによる構造の改善・組織再生と、HAによる直接的な水分補給やボリューム補充を組み合わせることは、顔や体の輪郭形成において強力な効果を発揮します(Tam 2024)。

3. コンビネーション治療のエビデンス

CaHAやPLLAなどのバイオスティミュレーターと、HAフィラーを組み合わせたコンビネーション治療に関する具体的な臨床的エビデンスとして、以下の複数の研究結果が報告されています(Tam 2024)。

HA単独 vs バイオスティミュレーター単独 vs 併用——効果比較
HA単独
即時効果
◎ 即時ボリューム補充
持続期間
6〜18ヶ月
コラーゲン生成
△ 線維芽細胞活性(副次的)
修正・溶解
◎ ヒアルロニダーゼで可能
主な用途
輪郭・唇・鼻
VS
CaHA/PLLA単独
即時効果
△ 緩やかな充填
持続期間
1.5〜2年以上
コラーゲン生成
◎ TGF-β経路で強力誘導
修正・溶解
✕ 特異的溶解剤なし
主な用途
顔全体・頸部・デコルテ
+
HA × バイオスティミュレーター 併用
即時効果
◎ HAが即時補完
持続期間
12ヶ月超(Fakih-Gomez 2022)
コラーゲン生成
◎◎ 相乗的コラーゲン誘導
患者満足度
◎ 全参加者高評価(Felix Bravo 2022)
主な用途
顔・顎・臀部・頸部
※ Tam 2024 / Fakih-Gomez 2022 / Felix Bravo 2022 より。個人の状態により適応は異なります

CaHAとHAフィラーの併用に関するエビデンス

CaHA+HA 併用治療 臨床エビデンス
研究
対象
部位
結果
持続
Godin 2006
72名
顔面
併用群の満足度が高い
Chang 2020
25名
ほうれい線・顎
しわ重症度の改善
長期維持
Fakih-Gomez 2022
41名
顎ライン
有意な改善
最大12ヶ月
Yutskovskaya 2024
8名
顔面
段階的注射が優位
コラーゲン↑
Felix Bravo 2022
15名
側頭・頬・顎
真皮厚増加(超音波確認)
※ すべてTam 2024のレビューより引用
  • Godinら(2006)の研究: 72人の被験者を対象に、CaHAベースのフィラー単独使用と、CaHAおよびHAベースのフィラーの併用を比較しました。結果として、併用治療を受けた患者は全体的により高い満足度を報告し、他の人にその治療を勧める可能性が高いことが示されました。この研究は、より包括的な顔の若返りのためにHAフィラーとCaHAを組み合わせることの付加価値を強調しています(Tam 2024)。
  • Changら(2020)の研究: 25人の被験者を対象に、ほうれい線、顎の輪郭(ジョーライン)、および耳後部の若返りのためにCaHAとHAフィラーを併用しました。短期および長期のフォローアップの両方で、しわの重症度に一貫した改善が見られました。さらに皮膚生検では、過度な炎症を伴わずに真皮のコラーゲン束が増加していることが示され、顔の特長を強調するための安全で効果的な組み合わせであることが示唆されました(Tam 2024)。
  • Fakih-Gomezら(2022)の研究: 41人の被験者において、CaHAと結合性多密度マトリックス(CPM)技術を用いたHAの事前混合物を使用しました。結果として顎のラインの美学に有意な改善が見られ、その利点は最大12ヶ月間持続しました。この研究は、これら2つのフィラーを顔の輪郭形成に組み合わせることの長期的な効果を浮き彫りにしています(Tam 2024)。
  • Yutskovskayaら(2024)の研究: 8人の被験者を対象に、CaHAとCPM-HAフィラーの段階的注射(時間差での注射)と同時注射を比較しました。その結果、段階的な注射の方が、弾性線維の強力な形成と血管新生によって証明されるように、より優れた皮膚リモデリング効果をもたらすことが示唆されました(Tam 2024)。
  • Felix Bravoら(2022)の研究: 15人の被験者を対象とした研究で、CaHAとHAフィラーの組み合わせにより、真皮の厚さと均質性が有意に増加したことが超音波検査で確認されました。また、すべての参加者が高い満足度を報告しました(Tam 2024)。

PLLAとHAフィラーの併用に関するエビデンス

  • Fariaら(2023)の研究: 臀部(Glutes)におけるモデリングプロトコルとして、PLLAによるコラーゲンバイオスティミュレーションと、HAによるボリュームアップを併用する治療を評価しました。この研究においても、合併症の報告はなく、臀部の外観改善およびボリュームアップに寄与したことが示されています(Tam 2024)。

4. 部位別の使い分け

バイオスティミュレーターとHAフィラーの併用、あるいはそれぞれの単独使用は、目的とする組織の解剖学的特徴や老化の状態に応じて、様々な部位で使い分けられます。

部位別 推奨バイオスティミュレーター+HA併用
部位
主な薬剤
目的
エビデンス
中顔面・下顔面
CaHA + HA
ボリューム+引き締め
Fakih-Gomez
ほうれい線
HA + CaHA
即時充填+コラーゲン生成
Chang
側頭・頬・顎
CaHA(扇状)+ HA
全体リフト+真皮厚↑
Felix Bravo
臀部
PLLA + HA
質感改善+ボリューム
Faria
頸部・デコルテ
希釈CaHA/PLLA + HA
弾力回復+ハリ
Tam
HA(優先)/ CaHA
輪郭形成+安全性
DeVictor
※ 鼻はHA優先(ヒアルロニダーゼで溶解可能なため安全性が高い)

顔面および顎周辺(輪郭形成と若返り)

顔面の様々な部位に対するコンビネーション治療は、老化に伴うボリューム減少と皮膚のたるみを同時に改善するために行われます(Tam 2024)。

  • 中顔面・下顔面(Midface, lower face): 頬のコケや、顎のライン(ジョーライン)のたるみに対して、CaHAとHAが併用されます。Fakih-Gomezらの研究では、これらの部位への注入により、下顔面のたるみが改善し、フェイスラインが整うことが確認されています(Tam 2024)。
  • ほうれい線(Nasolabial fold): 深いほうれい線に対しては、HAによる物理的な即時ボリュームアップに加え、CaHAによる周囲組織の引き締めと長期的なコラーゲン生成が効果的です(Tam 2024)。
  • 側頭部・頬部・顎(Temporal, malar, and jaw regions): Felix Bravoらのプロトコルでは、これらの部位にCaHAをファン(扇状)テクニックで注入し、HAを皮下へ注入することで、顔面全体のたるみを改善し、真皮の厚さを増加させています(Tam 2024)。
  • 耳後部(Post-auricular): Changらの研究では、加齢による耳の後ろの皮膚のたるみや若返りにもこの組み合わせが有効であることが示されています(Tam 2024)。

体幹・四肢(ボディコントゥアリング)

  • 臀部(Buttocks / Glutes): Fariaらは、HAによるボリューム補充とPLLAによるバイオスティミュレーションを組み合わせた臀部のモデリングプロトコルを実施しています。これにより、広範囲の組織の質感改善と輪郭の向上が図られます(Tam 2024)。
  • 頸部・デコルテ(Neck, décolleté): 首周りや胸元のしわ、肌の弾力低下に対しては、CaHAやPLLAを希釈して使用することが多く、HAやエネルギーベースのデバイスと組み合わせることで高い効果を発揮します(Tam 2024)。

鼻(非手術的鼻形成術)

鼻の輪郭形成(非手術的鼻形成術)においては、主にその高いボリューム形成力と安全性の観点から、HAまたはCaHAがよく用いられます。DeVictorら(2021)のメタアナリシスによれば、鼻のフィラー注入において最も一般的に使用された物質はHAであり(対象患者の75.67%)、次いでCaHA(18.92%)でした(DeVictor 2021)。Williamsら(2020)のシステマティックレビューでも同様に、鼻に対するフィラーとしてはHA(73.38%)とCaHA(12.44%)が主流であることが示されています(Williams 2020)。

鼻への注射において、HAはヒアルロニダーゼという「リバーサル剤(溶解剤)」が存在するため、万が一の血管閉塞時や過剰注入時に分解・修正することが可能であり、より安全な選択肢とされています(DeVictor 2021)。一方、CaHAは持続期間が長いという利点があるものの、特異的な溶解剤が存在しないため、合併症が生じた際の対応が難しく、一部の医師は鼻へのCaHAの使用を推奨していません(Williams 2020)。鼻部におけるHAとCaHAの「併用」に関する具体的な大規模研究は少ないですが、鼻の解剖学的構造(鼻背、鼻尖、鼻柱など)に合わせて、HAを深く骨膜上・軟骨膜上に注入して構造を作り上げる技術が確立されています(Trevidic 2022)。

5. リスクと注意点

バイオスティミュレーターやHAフィラーを用いた治療、およびそれらの併用療法は、多くの利点がある反面、様々な合併症のリスクも伴います。適切な患者選択と術後のモニタリングが不可欠です(Tam 2024)。

軽度から中等度の合併症

バイオスティミュレーター併用 合併症発生率
合併症
発生率
重症度
回復期間
紅斑・内出血
約30%
軽度
数日〜1週間
腫脹
約20%
軽〜中
1週間以内
遅発性紅斑
約15%
2週間超
結節・しこり
10〜15%
数週〜数ヶ月
肉芽腫
3〜5%
重度
ステロイド/外科的除去
血管合併症
<1%
重篤
即時対応必要
※ 血管閉塞放置時:皮膚壊死(<0.5%)・失明リスクあり
  • 紅斑および内出血(Erythema and bruising): CaHAやPLLAをHAやエネルギーベースの治療と組み合わせた場合、注射部位における一時的な紅斑や軽度の内出血が頻繁に報告されています。約30%の患者で紅斑が見られることがあり、通常は治療後数時間で現れ、数日以内に解消します。これらの症状の管理には、冷罨法(アイシング)、軽度の鎮痛剤の使用、および激しい運動の回避が推奨されます(Tam 2024)。
  • 腫脹および遅発性紅斑: 治療後、約20%の患者で軽度から中等度の腫れが生じることがあり、通常は1週間以内に治まります。しかし、一部のケース(約15%)では、2週間を超えて持続する遅発性の紅斑が観察されることがあります。このような持続的な炎症には、局所コルチコステロイドの塗布などによる管理が必要です(Tam 2024)。

重度の合併症

  • 結節およびしこり(Nodules and lumps): 10〜15%の患者で、治療後数週間から数ヶ月経ってから、結節や触知可能な「しこり」が発生することがあります。これは、フィラーのバイオスティミュレーター特性(コラーゲン生成を促す異物反応)に起因する可能性が高いです。管理戦略としては、炎症を和らげるためのコルチコステロイドの病変内注射が含まれ、持続する結節に対しては外科的切除が考慮されます。PLLAの場合は、製品の分散を助けるためのマッサージが推奨されます(Tam 2024)。
  • 肉芽腫(Granulomas): 治療の数ヶ月後に、3〜5%のケースで肉芽腫または硬い炎症性腫瘤が形成されることがあります。これに対しても高用量のステロイド注射が投与され、抵抗性の場合は外科的除去が検討されます(Tam 2024)。
  • 血管合併症(Vascular complications): まれではありますが、全症例の1%未満で重篤な血管合併症が発生します。これは、フィラーが誤って血管内に注入されること(血管内注入)や、過度な注入量による血管の圧迫が原因です。症状としては即時の蒼白化や激しい痛みが生じます(Tam 2024)。
  • 皮膚壊死および視力喪失: 血管閉塞が放置された場合、皮膚壊死(0.5%未満)や、網膜動脈の閉塞による失明といった壊滅的な結果を招く恐れがあります。特に鼻、眉間、ほうれい線は血管合併症の高リスク部位とされています(DeVictor 2021)(Trevidic 2022)。

合併症の管理と法的リスクへの対応

HAに関連する血管閉塞の場合、管理には高用量のヒアルロニダーゼの即時投与、温罨法、血流を改善するための血管拡張薬の使用が含まれます。一方、CaHAによる壊死の場合は、ヒアルロニダーゼが無効であるため、経口抗生物質、局所の創傷ケア、および必要に応じた高圧酸素療法などの支持療法が必要となります(Tam 2024)。

また、これらの複合治療を行う場合、有害事象の潜在的なリスクについて患者への完全なインフォームドコンセントの取得が最も重要です。期待される結果、限界、肉芽腫や血管障害といったまれで深刻な結果を含む合併症を管理するための具体的な手順について明確に文書化し、コミュニケーションを図ることで、現実的な期待値を設定し、患者の不満やそれに伴う法的紛争(メディコリーガルリスク)の可能性を減らすことができます(Tam 2024)。

「私の場合はどうだろう?」と思ったら

無料カウンセリングを予約する

無理な勧誘はございません。お気軽にどうぞ。

6. まとめ

バイオスティミュレーター(CaHAやPLLA)とHAフィラーを組み合わせた治療は、コラーゲンやエラスチンの生成を持続的に促進しつつ、即時的なボリューム補充を可能にするため、美容医療において非常に有望なアプローチです。これらのコンビネーションは、単一の治療法よりも包括的で長期的な美容上の改善をもたらす可能性があり、多くの研究で患者の高い満足度が報告されています(Tam 2024)。

しかしながら、現在の文献では、治療プロトコルの不均一性、サンプルサイズの小ささ、長期的な有効性に関する客観的指標の不足など、いくつかの限界が存在します。また、これらの組み合わせがどのように細胞シグナル伝達や特定のコラーゲン生成経路に影響を与えるかという、分子レベルでのメカニズムの理解もまだ十分ではありません(Tam 2024)。

鼻のような解剖学的に複雑でリスクの高い部位への適用を含め、合併症のリスクを最小限に抑えるためには、医師による深い解剖学的知識、適切な患者評価、および慎重な製品選択が不可欠です(Trevidic 2022)。今後、安全性と有効性を完全に確立し、実践に向けたエビデンスに基づいたガイドラインを構築するために、標準化されたプロトコルを用いたさらなる長期的な研究と、高度な組織学的・分子的分析が求められます(Tam 2024)。

中村 宏光

この記事を書いた人

中村 宏光 医師

Zetith Beauty Clinic 銀座・大阪・福岡

日本国内および国際学会での研究発表実績を持ち、Zetith Beauty Clinic全体の技術指導・教育にも携わる。解剖学的根拠に基づいた精密な美容医療を専門とし、一人ひとりの骨格や組織に合わせた自然な仕上がりを追求している。