ボトックスの効果はいつまで?部位別の持続期間データを論文で解説
「3ヶ月くらいですかね」——クリニックで返ってくるこの答えに、あなたはもう満足していないはずです。

なぜなら、あなたが本当に知りたいのは「自分の部位に、自分の性別で、どの製剤を使えば、何週間持つのか」という具体的な数字だからです。
実は医学論文には、その答えがすでに出ています。眉間なら最大24.2週。目尻なら最大157日。口周りはヒアルロン酸を組み合わせると持続期間が1.5倍以上に延びる——これはすべて、査読済み臨床研究のデータです。
この記事では、以下の4点を論文データのみで解説します。
- ボトックス(ボツリヌストキシン)の基本的な作用機序と効果が切れるメカニズム
- 眉間、目尻、額、口周り、咬筋(エラ)など、部位別の詳細な効果持続期間
- 投与量(単位数)や製剤の種類によって持続期間がどう変化するのか
- 性別による効果持続期間の違い
「人それぞれ」では納得できない方のために、世界中の信頼できる医学論文やシステマティックレビューのデータのみを用いて、部位別・製剤別のボトックス持続期間を徹底的に解説します。
そもそも、なぜ効果は切れる?——作用機序と持続のメカニズム
ここを理解しないと、「なぜ自分だけ早く切れるのか」が永遠にわかりません。

BontAを筋肉内に注射すると、毒素が神経終末に拡散して結合し、神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を防ぎます。これにより、神経筋接合部での作用が阻害され、結果として筋肉が収縮しなくなり、表情ジワ(動的シワ)が形成されなくなります(Berry 2012)。
筋活動の完全な欠如は、注射後およそ5日から15日(Berry 2012)で発生します。特定の顔面筋が収縮しなくなるため、シワが減ったと実感できるのです(Fagien 2003)。
では、なぜ数ヶ月で効果が切れるのか。
答えはシンプルです——神経が「再生」するからです。化学的な効果による筋肉の萎縮は、神経終末における「発芽(sprouting)」として知られる再生プロセスを引き起こします。この再生プロセスは120日間持続し、神経筋接合部に新たな終末を生み出し、最終的に筋肉の活動を回復させます。このようなメカニズムがあるため、臨床的な治療効果の持続期間は通常3ヶ月から6ヶ月(Berry 2012)の範囲となります。
メカニズムを押さえたところで、いよいよ部位別の具体的な数字を見ていきましょう。
【眉間】最も研究データが豊富な部位——17.6週〜24.2週
美容医療において最も一般的な治療部位の1つ(Cochrane Review 2021)が、眉間のしわです。そのため、データも最も充実しています。

まず、あなたが「常識」だと思っていることを崩させてください。
「高用量=長持ち」は本当か?20U〜80Uの比較データ
用量を4倍にすれば、持続期間も4倍になる——残念ながら、そうはなりません。数字を見れば一目瞭然です。
- OnabotulinumtoxinA 20U(Carruthers 2005b):平均持続期間 17.6週
- 同製剤 40U(Carruthers 2005b):21.7週
- 同製剤 60U(Carruthers 2005a):22.8週
- 同製剤 80U(Carruthers 2005a):24.2週
20U → 80Uと用量を4倍にしても、持続期間は17.6週 → 24.2週の延長にとどまります。つまり、高用量を投与すればそれだけ長く効果が続くものの、劇的に倍増するわけではありません。「たくさん打てば長持ち」という単純な話ではないのです。
製剤の種類による眉間の持続期間の違い
次に、製剤ごとのデータです。ボトックスには複数の製剤が存在し、それぞれで持続期間のデータが報告されています。
IncobotulinumtoxinA(XEOMIN®など)
持続期間は女性で20.8週(146.12日)、男性で17.3週(121.14日)。同研究におけるOnabotulinumtoxinAの持続期間は、女性で20週(140.65日)、男性で16.6週(Rappl 2013)(116.61日)であり、両製剤は非常に近い持続期間を示しています。
AbobotulinumtoxinA(Dysport®など)
- プラセボと比較した研究では、持続期間の中央値は12週(Brandt 2009)(85日)
- 別の研究では15.3週(Kane 2009)(107日)
- さらに別の研究では効果の持続期間の中央値が117日(Monheit 2019)
DaxibotulinumtoxinA
60Uの投与により、効果の持続期間が22.5週〜23.2週に達したと報告されています。同製剤の20Uでは20.8週、40U(Carruthers 2017)では22.80週という長期間の持続が示されています。
NewBontA(Prosigne®など)
NewBontA 20Uの持続期間は12週(84.5 ± 38.8日)であり、比較されたOnabotulinumtoxinA 20U(Won 2013)の12.8週(89.9 ± 41.1日)とほぼ同等でした。
【額】横ジワは113〜125日——用量差はわずか
額の横ジワもボトックスの代表的な治療部位です。眉間と同様に、用量が多いほど持続するものの、その差は限定的です。

OnabotulinumtoxinA 40Uを投与した場合、医師評価による治療効果の持続期間は118.5日、患者自身の評価による持続期間は125日。一方、30Uを投与したグループでは、医師評価で113.0日、患者評価で115.5日(Solish 2016)でした。
40Uと30Uの差はわずか5〜10日。用量と持続期間の関係は、ここでも「劇的な比例関係」ではないことがわかります。
【目尻】笑いジワは最大157日——日本人データもあり
笑ったときにできる目尻のしわ、いわゆる「笑いジワ」。この部位のデータは、実は研究によってかなりバラつきがあります。

- OnabotulinumtoxinA 24U(Carruthers 2014):医師評価で16.8週(118日)、患者評価で16.5週(116日)。ベースラインから少なくとも1段階の改善が見られた患者では、医師評価で17.8週(125日)、患者評価で20.5週(144日)
- 別の研究では、OnabotulinumtoxinA 24U(Wu 2019)の効果の持続期間は医師評価・患者評価ともに約150〜157日
- 日本人対象の研究では、OnabotulinumtoxinA 24U(Harii 2017)の持続期間は約95日(12Uでは85日)
日本人データが示す約95日という数字は、海外データの150日超と比べて短い。これは体格差・筋肉量の違いが影響している可能性があります。自分のデータとして参考にすべきは、同じ人種のデータであることを覚えておいてください。
【口周り】単独では9.9週——でもヒアルロン酸と組み合わせると15.5週に
ここで、知らないと損をする組み合わせの話をします。
口周りのしわは他の部位と比べて持続期間がやや短い——これは事実です。OnabotulinumtoxinAを単独で9U(Carruthers 2010)投与した場合の平均効果持続期間は9.9週(69.3 ± 11.0日)。
ところが、同じ9UのOnabotulinumtoxinAにヒアルロン酸(JUVEDERM ULTRA®など)を併用した場合、持続期間は15.5週(108.9 ± 12日)へと大幅に延長されました(Carruthers 2010)。
9.9週 → 15.5週。約56%の延長です。
口周りの深いしわに対しては、筋肉の動きを抑えるボトックスと溝を埋めるヒアルロン酸のコンビネーション治療が非常に有効です。「ボトックスだけ」で口周りのしわを治そうとしている方は、一度医師に併用の可能性を聞いてみる価値があります。
【エラ(咬筋)】繰り返し注射は要注意——6ヶ月後も機能が回復しないデータあり
エラへのボトックスには、他の部位にはないリスクがあります。これを知らずに繰り返し注射している方は、読み飛ばさないでください。
エラ(咬筋肥大)に対するボトックス注射は、顔の輪郭をシャープにする小顔目的や、歯ぎしり・食いしばりの治療目的で非常に人気があります。しかし、咬筋への注射には他の部位とは異なる注意点が存在します。
単回注射と繰り返し注射——データが示す深刻な差
26人(Souza Nobre 2024)の女性を対象とした臨床試験では、各咬筋に75U(Souza Nobre 2024)のAbobotulinumtoxinが投与されました。単回の低用量BontA注射は筋肉の厚みに対して永久的な影響を与えないと考えられており、超音波検査による評価でも3ヶ月(Souza Nobre 2024)後には厚みが回復し始めていたことが確認されています。
ここからが重要です。
初回注射から3ヶ月(Souza Nobre 2024)後に追加のブースター注射を行ったグループでは、2回目の注射から3ヶ月(初回から合計6ヶ月)が経過しても、筋肉の厚みは正常に戻りませんでした(Souza Nobre 2024)。これは、神経支配の回復が不完全であったり、筋肉線維の萎縮が進行した結果である可能性が指摘されています。
咀嚼機能への長期的影響——「噛む力」が半年以上戻らない
咬合力(噛む力)も単回注射であれば3ヶ月(Souza Nobre 2024)で徐々に正常に戻ります。ところが、3ヶ月後に追加注射を行った場合、6ヶ月の追跡調査時点でも筋肉の活動は回復しませんでした(Souza Nobre 2024)。また、咀嚼パフォーマンス(噛み砕く能力)に関しても、単回注射および3ヶ月後の追加注射の両方において、6ヶ月の追跡期間中ずっと機能が低下したままでした(Souza Nobre 2024)。
美容目的のみで咬筋にボトックスを繰り返し注射する場合、筋肉の萎縮や咀嚼機能の低下といった機能的な悪影響が長引く可能性があるため、治療間隔には十分な注意が必要です。
持続期間を左右するもう1つの要因——「性別」で約25日変わる
部位と製剤だけが持続期間を決めるわけではありません。あなたが男性か女性かによっても、効果の持続期間は大きく変わります。
一般的に、男性は女性よりも筋肉が発達しており強い力を持っています。この事実は、シワを治療するために必要なBontAの単位数や、効果の持続期間に直接的に影響を与える可能性があります(Cochrane Review 2021)。
数字で見ると、その差は一目瞭然です。
IncobotulinumtoxinAを投与されたグループにおいて、治療効果の持続期間は女性で146.12日であったのに対し、男性では121.14日と約25日短くなりました。同様に、OnabotulinumtoxinAを投与されたグループでも、女性の持続期間は140.65日であったのに対し、男性は116.61日(Rappl 2013)という結果が出ています。
男性で「なぜ自分は早く切れる気がするのか」と感じていた方——それは気のせいではなく、論文で裏付けられたデータです。男性の場合、通常よりも高用量の投与や短い間隔での治療が必要になるケースがあります。
まとめ:部位別・持続期間データ一覧
ここまで読んだあなたは、「人それぞれ」という曖昧な言葉に惑わされる必要がなくなりました。論文データが示す事実を、最後に整理しておきます。
- 眉間のしわ: 用量により異なるが、概ね17週(Carruthers 2005a)から24週(Carruthers 2005a)程度持続する。高用量(80U)を投与すれば24.2週もつが、用量に完全に比例するわけではない。
- 目尻のしわ: 概ね16週(116日〜118日)から20週(約144日)程度持続する(Carruthers 2014)。
- 額のしわ: 30Uから40Uの投与で、約113日から125日持続する(Solish 2016)。
- 口周りのしわ: ボトックス単独では9.9週と比較的短いが、ヒアルロン酸を併用することで15.5週(Carruthers 2010)へと約56%持続期間を延ばすことができる。
- エラ(咬筋): 単回注射では3ヶ月程度で回復し始めるが、短い間隔で繰り返し注射を行うと、筋肉の萎縮や咀嚼機能の低下といった悪影響が6ヶ月以上長引く可能性がある(Souza Nobre 2024)。
- 性別の影響: 男性は筋肉の力が強いため、女性と比べてボトックスの効果持続期間が約25日短くなる傾向がある(Rappl 2013)。
ボトックスは安全で効果的な治療法ですが、その作用機序や部位による特性、さらには自身の筋肉の強さ(性別など)を理解しておくことで、より満足度の高い治療計画を立てることができます。次回のクリニック受診の際には、これらのデータを参考に、医師と適切な投与量や治療スケジュールについて相談してみてください。
参考文献
- Gostimir M et al. Safety of Botulinum Toxin A Injections for Facial Rejuvenation: A Meta-Analysis of 9,669 Patients. Ophthalmic Plast Reconstr Surg. 2023
- Carruthers J, Carruthers A. Botulinum toxin type A treatment of multiple upper facial sites: patient-reported outcomes. Dermatol Surg. 2007
- Carruthers J et al. Injectable daxibotulinumtoxinA for glabellar lines. Dermatol Surg. 2017